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pixiv企画他、妄想イラスト、漫画もろもろ適当に書いてます リンクは勝手にしちゃってやっちゃって
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短編。時代は大体1900年代始め~半ば

PS:拍手ありがとうございます!

父が引っ越しを宣言したのは、春先だ。
私の年齢は14歳。父も母ももうだめかと思ったほど晩年にできた子で、その上一人娘の為大変可愛がられ何不自由なく育った。
普通なら反対するところだろうが、多少驚きこそすれさして断る理由もない私はそのまま二人と一緒に祖母のいる田舎へ引っ越すことに決めた。
 
「お父さんの子供のころは蛍が飛んでるくらい綺麗な水の流れる所だったんだぞ~」
家が数を減らし、道路標識ばかりが目立つような畑だらけの道。都会からこんな何もない所に引っ越す時同年代の子たちならもっと色々気にするだろうが、私が気にかけたことはただ一つ本屋の有無だった。
転校にも抵抗はなかった。大体友人との別れを惜しむような年齢でも性格でもない。
 
「さあ着いた」
まさしく昔ながらの農家、といった風情の建物。ここには何度か来たことがある。祖母が中から出迎えに出てきた。どこに引っ越したかと言えば何でもない、父の実家だ。
 
私に与えられたのは、かつて父の妹が暮らしていた部屋だった。引っ越しが住む前に部屋の中はがらんどうにされ、代わりに私の荷物が運び込まれる。
古い壁や、時代のある木の臭いが漂うほかは引っ越す前と大差ない私の部屋が出来上がる。少しの違いと言えば、運びきれなかった本を処分したために本が少し減ったくらいか。
 
私の生活習慣は変わらない。学校から帰ると本を開き、時には机に向かい、時には布団に転がりながら本を読む。そして疲れたら散歩に出かける。
玄関で下駄をつっかけている私に、祖母が声をかける。
「日が暮れてきたから気をつけるんだよ。」
「わかってるよ」
土の匂いのする夕去の道。家々の脇を流れる排水溝に、たまに魚の影がきらりきらりと輝いて見える。
田舎の道の散歩は楽しい。虫は大して好きではないが、色んな種類がいるのを見ると多少わくわくした。そして何よりも植物が豊かにしげっているのが嬉しい。
 
目の前に神社があることに気がついた。少し探索して帰ることにする。
大分前に管理する人がいなくなったのだろう。手水舎の水は涸れて枯れ草が詰まっている。
阿吽の狛犬の口には蜘蛛の巣が張られ、神社の屋根からは所々ペンペン草が生えている。個人でどうにかできるようなかわいい荒れ方ではなかったが、せめて狛犬の口に張られた蜘蛛の巣だけは取り除いてやった。
夢中になって散歩していると、思いのほか暗くなっている。太陽と変わって顔をのぞかせた月が群青の空を引き連れ、空のオレンジの面積を減らしていく。
 
そろそろ帰ろう。
そう思って振りかえり、心臓が止まるような思いをする。
参道で、真っ白に光る人影が踊っている。結構な距離はあるが、帰り路ど真ん中だ。非常に関わりたくない。こちらを気にするような風情もなかったので、何とか脇をすり抜けて帰ることにしよう。
しかし間もなく、白い人は煙のように消えた。変質者じゃ無くてほっとしたが、気味が悪いことに変わりは無いので、私は可能の限りの全速力で家に向かって走った。
 
「ただいま」
動揺と走ったのとが合わさり、心臓が痛いくらい脈打っている。
きょとんとした表情を見せる祖母に、神社で見かけたモノについて聞いてみた。
「もしかしたら神様かもねえ。」
狛犬の口の蜘蛛の巣を取ってあげたなら、感謝して現れたのかもしれないと祖母は言った。そんなヒョイヒョイ現れていいものなのかと疑問に思いながらも、白い人の正体がわからないので特に言及はしなかった。とりあえず、悪いものではなかったと思う。
 
 
次に行ったのは昼間だった。昼間には、そういうモノは出なかった。
やはり時間帯が問題なのかと、夕暮れ時を狙って鳥居の外から中をうかがうこともしてみた。あれ以来白い人が踊ってるのには出くわさない。出くわさないとなると見てみたくなる。
 
意を決してあの日と同じことをしてみる。とはいえ狛犬の口の蜘蛛の巣はもうないため、手水舎の枯れ草を取り除く。
するとどうだろう、白い人はまた現れて同じ所で踊っている。今日こそ逃すまい、と走ってその人に近づいた。
 
それは普通の人、子供にみえた。白い着物に唐風の服をを着てる男の子だ。
私に気がつくと、はたと踊るのをやめこちらに微笑みかける。
「何してるのこんなところで。」
そう聞いた私に、男の子が笑いかける。
「お礼に舞っていたのです。」
「お礼?貴方この神社の子?」
曖昧な微笑みが、どちらとも取らせる。変わった子だ。自分も人の事を言えた義理ではないけれど。
「この間もいたよね、どこから来たの?」
と聞くと、神社の方を指さす。
「いつもはいないじゃない。」
「居ますよ。いつも僕のことは誰も気にしないだけ。あまり長くはとどまれないけど。」
自分の境界だから、なんとか居ることができると言う。
 
昔はもっと大きくて、立派な姿をしていたとか何とか。自分がこの神社の神様だとでもいうんだろうか。同い年か少し下くらいに見えたし、そういう嘘をつくようにも見えない。そもそもどちらでも私は構わない。超常現象のたぐいだったとしたら面白い、そのくらいの感覚。大体今の状況は、夢の中の出来事に似ている。
「現世(うつしよ)にいつもいれないだけで、常世にはいつも居ますよ。いつも現世に居るのは人間位なものです。」
男の子が腕を上げると、その袖が霧のようにふわふわと曖昧になっているのが分かる。
「参拝する人が増えれば結構な力も出せるんですけどね。」
忘れられてるとどうにもこうにも、と首をひねる。話し方がどうにもおじさんくさい。
「引っ越しはしないの?」
「空き物件が無いので生憎…合祀してくださるってところもありませんし。」
成程、確かに神社には神様が居ないと始まらないから空き物件はなさそうだ。
「此処が綺麗になったらずっと居られるの?」
「多分?まあ、神社合祀令を逃れただけでも運が良かったと思いますよ。」
うちは氏子さんがあまり管理してくれないんですよねー、と世間話のように言う。
 
「まあ仕方ないですよ総代さんお年だし。祟る神様も居ますけど私はそういうことはしませんよ、疲れますもん。」
「ふ-ん、掃除くらいなら私がしてもいいけど。」
瓦の修理はできないけど境内の掃除くらいならできる。
「えっ、本当ですか」
「本当。毎日は無理だけど週に何回かは来るよ。」
それはありがたいです、と喜ぶ。
「私は穂垂(ほたる)。」
「雪紐(ゆきひも)とでもお呼びください。」
 
その日から少しだけ生活習慣に違いが出た。学校から帰って本を読み、疲れたら散歩に出かけて神社へ行き、少し掃除をして雪紐と少し話をする。雪紐は相変わらず霧のようにふわふわしてたけど、徐々に着物の柄が見える位はっきりしていった。けれど私以外の誰も雪紐とは出会わない。もしかしたら雪紐の存在自体、空想好きの私が生み出した夢なのかもしれない。それでも雪紐はそこにいる。
「雪紐は私が死んでもずっとここにいるの?」
「どうでしょう。穂垂が常世に行ったら誰も管理する人が居なくなるので、私はまた常世に居る時間が多くなるだろうな、とは。」
常世は、死んだあとの世界の事だ。雪紐の話す事は時々難しくて、私はよく家に帰ってから調べモノをする。
「じゃあ死んでも、雪紐には会えるんだよね?」
「寿命以外で死んでは嫌ですよ。閻魔さまの裁量によっては同じ所に行けませんから。」
少し変わった、穏やかな毎日。
 
 
私は今日も雪紐に会いに行く。
 

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HN:
須々木ピコリ(すずきぴこり)
年齢:
157
性別:
女性
誕生日:
1867/04/01
職業:
機械惑星の歯車あたり
趣味:
細工・お絵描き・惰眠をむさぼる
自己紹介:
ものぐさ。

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