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ビルの階段を駆け上る。
足は、わずかに渓のほうが早いようだ。渓に続き真木が追いかけてくる。
階段は四角形のらせん状に続き、業務時間を終えた事務所の看板が暗いビルの中に並ぶ。ビルは普通の事務所に使われるようなもので、高さは5階建て程度だろう。清めの印を結びながら階段を上るが、あまり術を練る時間はなさそうだ。
呪文を詠唱しながら、先ほどの羽取の言葉を思い出す。
『真木さんを生き返らせてほしいと願ったのは俺なんだ…』
金髪金目の男。
不完全な、鬼とも呼べない化け物が、後ろから追いかけてくる。
気がついたことがある。
この不完全な化け物は、羽取が言った通り『吸血鬼』に似ている。他者の血液を渇望する、といった点で。
西欧の化け物に対して、日本特有の術が効きづらいということはある。だが、この化け物は決定的に何かがおかしい。鬼や化け物としての気配をまとっているが、意思が弱すぎる。
人間が鬼になる際は相当の感情のエネルギーが必要になる。概念歪曲場が脆弱なのも、この薄弱な意思のせいであろう。自分からなったのでないとすると
何者かに作られた---金髪金目の男によって、このようにされたのか?
この化け物は、鬼として不完全なだけに、泉谷の術が効きづらい。
カサカサに干からびようとする気味の悪い存在でありながら、呪術的にはまだヒトに近いのだ。
術が効かないのなら、肉体的に破壊するしかない。
思いあたり、渓の胸に不安がよぎった。
渓は呪術的な破壊力は強いが、肉体的には威力に欠ける。先ほどの警察官の打った拳銃に耐えたところからも、真木の肉体的耐久力は相当のものだろう。
護身刀を握り締める。勝てるかわからなくとも、一般人を鬼との戦いに巻き込むわけにはいかない。自分の選んだ道は、間違ってはいないはずだ。
屋上へ続く扉。
幸い閉まってはいない。出たからと言って、相手を捲けるわけではないが、ビルから突き落とすくらいはできる。
ビルの屋上は、月明かり照らされていた。
振り返ると自分の影と、真木の姿が見えた。月光に照らされ、その様子がよくわかる。
生きたまま、いや、死んでいるのか。朽木のうろのような、どろんとした眼。かろうじて人間とわかる顔、先端が爪状になった四肢に、はがれおちていく皮膚。
鎖をはずされた猛犬のように、真木が渓に飛びかかる。
「封っ!」
渓が護身刀を持った手を円形に一周させると、空中に水の円が飛び出す。
高レベルの鬼なら、拘束して一定時間封印できるものだ。だが、霊的な意味の薄い真木には効果が無いようだ。あっさりと水円を突破する。
渓はビルの端にいる。飛びかかってきた真木を受け流し、落とすつもりだ。身体能力的に人間と大差ないなら、受け流せる。
ただ
やはり、そううまくはいかないようだ。
真木の筋力、反射神経は人間のそれをはるかに超えていた。
受け流そうとした渓の腕をとっさにつかみ、逆に引き倒す。
馬乗りになる形で渓にのしかかり、先ほどの傷跡---首にかみついた。
「うわああああああああああああああぁああ!」
悲鳴を上げるのは、渓の番だった。
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