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「結婚しようか。」
君が口を開いた時、正直僕は驚いた。
琴音は今年で27歳。僕の、4つ下だ。
特になりたいものもなく、何気なくサラリーマンを続けてきた僕と違い、琴音は夢に向かって仕事を続ける女の子だった。
僕たちが出会ったのは3年前。
いや、正確には9年前。僕たちは親しくなかったが、同じ大学の生徒だった。
大学を卒業してすぐの彼女が上京した時、バイトを始めた雑貨店がたまたま僕の行きつけの店だったという、正直ちょっとありえないような再会だった。
僕たちは何度も店で顔を合わせ、たまたま出身校の話になりそのことが判明し、そして意気投合した。
それ以来、何度となくデートをする仲になった。
彼氏彼女ではないが、家に行き来する仲になった。
肉体的な関係があるわけではない。そういう気持ちが起こらないだけで、彼女のことは愛している。
彼氏彼女でもなく、肉体的関係があるわけでもない男女関係。それを男女の友情というのかはわからないが、僕にとってはときどきあり得る出来事だった。
彼女は勤め先をよく変えた。だけど、僕たちの関係は変わらなかった。
彼女は僕の部屋に来て「こうしたほうがかっこいい」と言い、しっちゃかめっちゃかに部屋の中をかき回す。
都内によく見かけるセレクトショップ。
オーナーのセンスで商品を選ぶ雑貨店のようなお店で、僕が解釈するにはセンスを売る仕事なんだけど…
彼女はそのオーナーになりたいと言って、大学卒業以来職場を転々と変えてきた。
僕が知る限り彼女はいつもその夢に向かって、邁進(まいしん)していた。
そんな琴音が言った「結婚」の2文字が、僕には「もう疲れた」の合図に聞こえた。
「結婚しようか」
僕は首を横に振る。
「どうして?」
「琴音のことを本当に好きだからだよ。」
「……。」
琴音が僕と結婚したくなったのは、仕事がとても好きだから。
大好きな仕事に行き詰って、行き詰って、どうしようもなくなって。
「逃げるなよ。」
君は今止まろうとしても、結局は動かずにはいられないだろう。
好きだからこそ自分の限界が怖くて、逃げたくなったんだろう。
うつむいた頭をやさしく撫でる。
下を向いて表情は見えないけど、ぽたぽたと落ちる涙で泣いてることがわかる。
「しばらくはさ、休んでてもいいと思うよ。」
涙を拭おうともしない強情ものの、こわばった手をとる。
きっと、空を飛ぶ鳥を休ませる木はこんな気持ちだ。
高く高く飛ぶことに疲れた君に、もう少し飛んで欲しいと願う僕は、残酷なのかもしれない。
だけどもともと翼をもたない僕にとって、楽しそうに空を飛んでいた君は憧れ以外の何物でもなかった。
「僕はいつでもここにいるから。」
鳥がどこまで高く飛ぶのかを、木はきっとわくわくしながら眺めてる。
君が夢に向かっているのを、僕は自分のことのように愛しく思う。
自信喪失しないで、君が飛べることを知っている。高くなくていい、君の飛び方が好きだから。
疲れたらまた僕の枝で休んでほしい。
しばらく泣いて、琴音は決然と立ち上がる。
「また、来てもいい?」
僕は答える。
「いつでも。」
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